Threads狂想曲
MetaのTwitterことThreadsがローンチされた。普通ならTwitterキラーとでも呼ぶべきなのだろうが、Twitterの悲惨な状態を思えば、むしろ混乱するTwitter民を救いに来たようなタイミングである。
とはいえThreadsは思っていた以上にTwitterと異なる。直接の代替になるかというと、ならないだろう。Metaから見れば、Twitterの不備を直して、Twitterそのものにならないように準備してきたとも言える。そして代替だろうと、代替でなかろうと、人が他のものに時間を費やすようになったら、Twitterの負けなのである。
いずれにせよ後世の歴史家はTwitterが競合に負けたとは言わないだろう。Twitterは自滅しただけなのだから。
Threadsを見ながら思いついたことをだらだらと書いてみる。
Instagramブランド
今更の話ではあるが、ThreadsはInstagramブランドであり、InstagramのトップであるAdam MosseriがThreadsも率いているようだ。
Meta社が、Twitterがアレな状況であることに気付いて、どこかのタイミングで対抗アプリを作ることにした。Instagramのブランドで行くべきか、それとも新しいブランドにするという手もあったかもしれない。新しいネットワークを作ったとしても、友達やフォロワーはFacebookやInstagramから引き継げるようにすればいいのである。
Facebookブランドを使うという選択肢はあったのだろうか。ない気がする。社名もMetaになって、Facebookの存在は忘れられつつある。ソーシャルメディアも幼児から青年になって、老いて死んでいく。そのことを誰より理解しているザッカーバーグなのであった(ということにする)。
ソーシャルメディアで一番おっくうなのは(そしてソーシャルメディアジャンキーにとって一番楽しいのは)、始めることと、他人と繋がることである。Instagramのブランドとネットワークを使ったのは、その両方で心理的障壁を下げる効果がある。
一方、Instagramブランドを利用することで、個人情報のあれこれを迂回するという目的もあったのではないか。つまり「Meta社の新サービスがFacebookやInstagramで得た情報を活用している」と捉えられるのではなく「Instagramが新しいアプリを立ち上げた(ゆえに情報は当然のように共有される)」という形にしたのである。それでもEU圏ではローンチできなかったが。
ちなみにThreadsという名前は、もともとInstagramのDM専用アプリとして使われていた。2019年にローンチし、特に話題になることもなく2021年末に廃止されて、今回まったく新しいアプリとして名前が再利用された。旧Threadsの廃止時点で、名前は新Threadsに引き継がれることになっていたのだろうか。
なんにせよ命名というのは商標だなんだと面倒な作業だから、使い回しは効率的である。もしこのThreadsがいつか飽きられたら、第三、第四のThreadsを作って欲しい。
おすすめタイムライン
機能面でいえば中心となるタイムラインが時系列ではないこと、フォローしていない人の投稿が流れてくることが、なによりも目立つ。
Twitter自身が古き良き時系列タイムラインから「おすすめ」への移行を必死に促していたことを思えば、これは意外ではない。InstagramもFacebookも、頑なに時系列を否定し、なにかとフォローしていないコンテンツを挟みこむために頑張ってきた。その理由については以前、TikTokの発明について書いた通りである。
Facebookは、友達のいない状態では見るものがない。Twitterはフォローしているアカウントの投稿が減れば、タイムラインの流れも遅くなる。だからプラットフォームは「友達ではありませんか」「電話帳をアップロードしましょう」「フォローしませんか」としつこく促す。
だったら、もうフォローなんかに頼らなければいいじゃん、というのが20年経っていま、TikTokが辿り着いた境地ではないだろうか。長年ソーシャルメディアやプラットフォームの変遷を見てきた者としては、なるほど! と思ってしまう。
けっきょく、フォローだとかフォロワーだとかなんていらないのだ。犬猫の動画、飯の写真、美男美女、おもしろ動画、セレブの日常、感動する言葉、他になにがいる?
「親しい友達」にだけ呟くとか、「親しい友達」からの呟きはトップに表示させるとか、そういった機能はThreadsにも加えられるかもしれない。しかしタイムラインはこのまま時系列にはならないだろうし、フォローしているアカウントだけに絞ることもできないままだろう。ユーザがどれだけ文句を言おうと、それらは金を生み出すプロダクトとして間違いなのだ。
リスト機能なんてもってのほかである。
トレンド、検索、ハッシュタグ
ないといえば、トレンド機能もない。Facebookはかつてトレンドで炎上したことがあり、Instagramのトレンド機能もかなり穏やかなものである。
ソーシャルメディアというのは言うまでもなく社会の生き写しであって、おかしなことを言うおかしな人はどこにでもいる。ただ、そういう人達を目立たせるかどうかはプロダクトの設計次第である。
YouTubeやTwitterはパブリックなプラットフォームという立て付けなので、おかしな人がいるのも、それが人気になって広くリコメンドされるのも、社会がそういうものだから仕方ない、という態度である。アルゴリズムは悪くない。おかしな人がいる社会が悪い、と。
他方、FacebookやInstagramは友達との繋がりが重視され、社会のトレンドに対して距離を置いている。おかしな人をわざわざアルゴリズムで広くおすすめする必要はない。Twitterでの陰謀論は外向きだが、Facebookでの陰謀論は内向きだ、とでも言えばいいだろうか。
だからThreadsがこのデザインを貫くならば、自然とTwitterとはかなり異なる雰囲気になるだろう。
そう考えると検索機能が貧弱なのも納得である。Twitterで見られるような、わざわざ変な書き込みを探して炎上させるようなトラブルは御免というわけだ。まあ、ただ検索インフラの準備が間に合わなかったのかもしれないが。
ハッシュタグくらいはそのうちにやってくるかもしれない。Instagramの検索機能は、日本語はともかく英語ではかなりフィルタリングされているので、準備が遅れているという点も含めて、とにかく安全側に寄せていると言える。Twitterが喧伝していたパブリックフォーラムという目的よりも、身内との安全な場であることを目指しているのだろう。
リツイート数も表示されない。「バズ」なんて狙うなということである。
こうした諸々を踏まえると、個人はさておき、企業がTwitterのようにマーケティング目的で利用するのはなかなか難しそうである。では企業はどうすればいいのか? 広告を買いなさい。そういうデザインである。
Fediverse対応(は後で)
ThreadsはFediverseに対応することがすでにアナウンスされている。ActivityPubというMastodon(覚えてますか?)でも利用されているプロトコルを使って、他の互換ソーシャルメディアと相互に連携できるようになる。
ただし、対応は後日である。もちろん、開発が間に合わなかったのだろう。Twitterのアレな状況を見て、一刻も早くリリースしたかったというのは分かる。そうに違いない。
しかし、まずは他プラットフォームと接続せず、後で接続するというのは、かなり嫌らしく、賢い選択だと感じる。
Instagramの規模で考えれば、他のFediverseプラットフォームはまだまだ小さい。一方でInstagramはすでに普及している。ThreadsがFediverseに後日対応するということは、Fediverseが本格的に普及する前に、その入口をInstagramが抑えるということである。Threadsを敬遠するユーザも、ActivityPubを通じてThreadsでフォローされるので逃れられない。
もちろん相互接続なので、Threadsのコンテンツを外から読むだけのアプリなどが今後人気になっていく可能性はあり、広告収益に対するリスクとなる可能性もあるが、そうなったら安全性がどうとか理由をつけて遮断すればいい。Twitterも通った道である。
強者の開き直り
それにしても、これだけ大々的なローンチをトラブルなく済ませたMetaはすごい。もちろんFacebookやInstagramを日々動かしているのだから、インフラ資産は十分にあるわけだが、新しいサービスをスケールさせるのは常に大変なものである。
比較すると、Blueskyやらなにやらが招待コードを配ったりしていたのは、完全に弱者の戦略であった。強者は一日で1000万ユーザを受け入れられるし、間違えても一人が一日に閲覧できる量を制限しないのである。
そもそもTwitterがアレなのはこの数ヶ月のあいだ明らかだったのだから、他のところがTwitterクローンを作っても良かったのだ。Substackが出来たのだから、もっと巨大な企業だって出来ただろう。どことは言わないけど、動画共有サービスとは補完性があっただろうし、パブリックフォーラムという目的を考えれば検索サービスとの親和性も強い。
でも、Metaのようには出来なかった。Metaより小さいところはスケールで劣るし、同じかそれより大きなところはMetaのように潔くパクれなかった。対してMetaはSnapchat(ストーリーズ)もTikTok(リール)もパクることに慣れている。開き直った大企業はつよい。そう感じたThreadsでした。イーロン・マスクはいつブロックするんだろうな。あ、私のアカウントはこちら。