ジェイコブ・コリアーを分かりたい
11年前、ジェイコブ・コリアーという当時19歳のミュージシャンが、コーラスとあらゆる楽器を一人で多重録音する芸風で「バズった」。私もほぼリアルタイムで見たと思う。
スティーヴィー・ワンダーのカバー
もちろん、すごい手のこんだ動画ではある。完成度はすごく高い。でもまあ、才能のある人はこういうことが出来るよな、というのが私の感想だった。
そのあとジェイコブ・コリアーはミュージシャンとしてデビューし、アルバムが4作連続でグラミー賞を受賞するほど成功するわけだが、私は時々SpotifyやYouTubeで聴くものの、複雑で壮大なコーラスを作る人という印象で、それ以上ではなかった。たぶん、音楽の理論とかを詳しく理解していると、その面白みが分かるのだろう、という感じ。
デビューアルバムから、これもスティーヴィー・ワンダーの曲。このアレンジでグラミー賞を受賞。
結構いいじゃんとようやく気付いたのは、MahaliaとTy Dolla $ignをゲストに迎えたこのオリジナル曲で、トレードマークの多重コーラスは控え目に、ポップな仕上がりになっている。
そこからYouTubeが徐々にジェイコブ・コリアーの動画をおすすめするようになり、ダニエル・シーザーのヒット曲”Best Part”をカバーする動画に辿りついた。そして、これが本当に素晴らしく、すっかりファンになってしまった。ダニエル・シーザー本人登場のサプライズもある。誇張抜きで100回くらい見たと思う。時間がなくなるわけだよ。
恐ろしいことに私はこの動画を見るまで、ジェイコブ・コリアーがこれほど歌が上手くて、これほどピアノが上手いことをまったく認識していなかった。あれだけの多重コーラスや楽器の演奏が出来るのだから、才能があることは頭では分かっていたのだが、それでも今ではデジタル技術で歌も演奏も好きに調整できることを考えると、本当に歌えて本当に弾けると完全には信じていなかったわけである。
あれ、もしかして、本当にめちゃくちゃすごい才能ある? 歌がうまくて、あらゆる楽器が弾けて、複雑なコード進行を自在に操れるの? 本当に?
どうもそうらしい。TEDで一人ライブをやった動画を見ると分かる。
そもそも歌や楽器やアレンジ以前に、音楽の基礎能力がすごい。
微分音を説明する動画。ソとミの間に何音入るか「みんなどこまでも行けるだろうけど」と実演。普通はできません。
ポリリズムを説明する映画。5本指でそれぞれ6拍子、5拍子、4拍子、3拍子、2拍子をとる。
実はジェイコブ・コリアーは今年のはじめに5枚目のアルバムを出したのだが、まとまりがなさすぎるとかで、あんまり評判が良くない。私も聴いてはみたけれど、あんまり愛聴はしていない。SF作品でテレパシー能力のある人間が天才の頭の中を覗いて、理解できずに圧倒される……みたいなシーンがあるけれど、そんな感じである。
私みたいな音楽の素人には、やっぱりライブが分かりやすくていい。たとえばこれは、先にも紹介した同じスティーヴィー・ワンダーのカバーだけど、一人多重録音より、ボーカル・グループのTake 6との共演のほうがずっと良いのである。
これも何十回と見たせいで、一番の歌詞を間違えて歌っていることに気付いた。完璧超人みたいだが、間違えることもあって安心する。あとまあ、言う間でもなく原曲が素晴らしい。スティーヴィー・ワンダーにはこのレベルの名曲がいくつあるのだろうか。
そういうわけでジェイコブ・コリアー、YouTubeに無限に動画があるので、みなさんもぜひ聴いてみてください。やっぱりライブが見たいねえ。