日本語を分からせない
昨今は生成AIばかり話題になるけれど、その副産物として機械翻訳の精度向上も目覚ましいものがある。ChatGPTなどは当たり前のように複数の言語を同時に使いこなすので、翻訳というレイヤーの存在感が薄れてきている感じさえする。
多くの日本人と同様、私も英語にはコンプレックスがあるから、翻訳で悩まなくなるなら素晴らしい話である。でもそれって、外国人が日本語で悩むことがなくなっていくという話でもある。
たとえば近年のインバウンドの盛り上がりって、もちろん円安を契機に観光客が増えて、国内で色々な環境が整備された結果ではあるのだろうけど、複雑怪奇な日本語がスマホのアプリ一つでなんとなく読める・話せるようになったおかげ、という側面もあるだろう。
だから、もし日本人にとって英語が障壁でなくなったら、今まで以上に留学したり海外で就職したり起業したり、いろいろと活躍する人は出てくるのだろうけど、その一方で、日本語を学ばず、理解しないまま、日本でふつうに働いたりできる外国人も増えていくに違いない。
そうして日本語という障壁がなくなったとき、日本人にとってメリットとデメリットのどちらが大きいかというと、私はもう中年なので正直どちらでも良いのだが、あんまりデメリットのほうは語られていないのではないかとは思う。
まあテクノロジーによるグローバル化というのは元来そういうもので、日本は良くも悪くもその影響を比較的受けずに来たが、いよいよそうでもなくなってきたというか。
そう考えると、日本語という障壁はこれからも維持していかなければならない、自動翻訳なんて野蛮なものは許すべきではない、というような人達が、今更ながら出てきても不思議ではない。日本語の微妙な機微は翻訳など本来不可能であるはずなのだ! AIごときに日本語のなにが分かるのか! みたいなみたいな。ちょっと遅すぎる主張ではあるが。
また、日本語をあらためて翻訳不能にするため、構造をますます複雑にし、毎日のように新しい語彙を加え、全ての言葉に複数の意味を持たせ、あらゆるところに暗喩を散りばめ、決して書かれている通りには読みとらせず、言葉の一つ一つに決して見逃してはいけない意味を与えるようにしていく、という方法もあるとは思う。私自身は極めて分かりやすく論理的な日本語しか書けないので、役立てそうにないのが残念です。