ドント・ルック・アップ:コメディ映画に笑われろ
Netflixで昨年末に公開された映画「ドント・ルック・アップ」を見た。
あらすじはこうである。天文学を専攻するジェニファー・ローレンスは、未知の巨大彗星を発見する。担当教授のレオナルド・ディカプリオと確認したところ、彗星は半年後に地球へ直撃する。このままでは人類は絶滅する!
過去に何度もあったようなプロットだが、90年代とは異なり、地球を守るために立ち上がる愛国者たちは現れない。というか、誰も彗星のことを信じない。ディカプリオがどれだけ危険性を説いても、政治家は選挙のことしか考えてないし、メディアはウケることしか考えてないし、メガIT企業は金のことしか考えてないし、民衆は何も考えてない。
中盤、彗星がいよいよ地球に近づき、肉眼でも空に見えるようになる。ディカプリオは言う。「ルック・アップ!」と。彗星がそこにあるじゃん! 落ちてきてるじゃん! 人類は絶滅する!
反対派は言う。そんなのデマじゃん、陰謀論じゃん、上なんか見るなよ、「ドント・ルック・アップ」と。
そして両論併記野郎が出てきて言う。まあまあ、喧嘩するなって、お互い手を取り合って話をしようよ、上を見ても下を見てもいいじゃないか、と。
笑える。これが2020年代。笑えない時代。
映画には時々、愚かな脇役が現れて、進んで犠牲となっていく。殺人鬼がすぐそばにいるのに、俺は一人で寝るというヤツ。外ではモンスターが暴れまわっているのに、静かになったからちょっと様子を見てくるというヤツ。現実にはこんなバカはいないだろと、私達は映画を見ながらツッコミを入れるわけである。ちょっと考えればわかるじゃん、と。
しかしこの数年で私達が学んだことは、私達はやばいくらいバカで、科学者の言うことに耳を傾けないというか、そもそも自分の頭でちょっと考えることさえない。このコメディ映画はそんな私達を存分に笑っている。返す言葉がありません。
そういう風に考えると、本作はこれ以上ないエンディングなので、お時間ある方はぜひ見てください。
マンガ家の沙村広明が、どこかの後書きで、時事ネタを入れすぎると陳腐化するのが早くなると反省していたが、そういう意味ではこの映画は実に2021年的である。願わくば、これから人類がもうすこし賢くなって、近い未来にはこの物語がすっかり陳腐化してくれるといいのだけど。