がさつさんで行こう
高校生くらいまでの私はコレクター気質であった。ビックリマンからネクロスの要塞からテレホンカードからレゴまで、ついつい集めては丁寧に整理する習性があった。読んでいるマンガは新刊が出たらすぐに買って、つまらなくなってきても買い続け、本棚に巻数の順に並べた。マンガやCDに初回限定版が出たら、おまけがどれだけしょうもなくて、価格がどれだけ上乗せされていても、ついつい手に入れてしまうのであった。
浪人生の頃だったと思う。なにかのマンガの多少高価な初回限定版を本屋で見つけて、もうこういうのに構う必要はないな、と急に思った。はっきり言えば、お金がなかったのである。そのうち読んでるマンガの新刊を無条件に買うことをやめ、買ったマンガを読むのを忘れるようになった。いまは4年前に買ったナウシカのマンガをようやく読んでいる。めちゃくちゃ面白い。
十代の私が素朴だったのかもしれないけど、昔はファンのための初回限定版というのが確かにあったと思う。でもそうした牧歌的であったファン商法は、どんどん洗練されていき、そのため私はどこかで、これはビジネスのための初回限定版なんだな、と悟ってしまった。
人がどうすれば誘惑されるか、ビジネス側の理解はますます進んでいる。マネタイズのための誘惑を徹底的に実装した一番わかりやすい例がオンラインゲームだろう。毎日ログインすることで、ちょっとしたプレゼントがもらえる。ウィークリーチャレンジをこなすと経験値が追加でもらえる。そうやって毎日のゲームを習慣づける。そして最初は少しだけ課金させ、次への課金へと誘導する。せっかく購入したバトルパスは月末には終了して、それまでにレベルを40までに上げないといけない。私達の意思は誘惑で少しづつ捻じ曲げてられていく。
ゲームだけではない。Duolingoみたいな学習系サービスでさえ、連続記録がどうだとか、リーグとランキングがどうだとか言ってくる。ウェブサービスはどこも通知まみれで、通知アイコンは常に赤く輝き、私達がタップすることを待ち構えている。細かなことまで気にする真面目で素直で実直な人ほど、そういう罠に陥りやすい。
すこし前に繊細さんがどうこうというのが流行ったけれど、繊細さんであることを気にすること自体が繊細さんだなと思うと、ちょっと笑ってしまう。もし反対に「がさつさん」の本があったら、がさつな人は買わないだろう。
いまの時代、私達はかなり意図的にがさつであるべきなのかもしれない。初回限定アイテムも期間限定ボーナスも気にしない。通知がどれだけ溜まっていても気にならないし、企業からのお得なメッセージにも気付かない。セールもポイント還元も知らない。欲しいものを欲しいときに買って、やりたいようにやっていくだけ。私は真面目で素直で実直なので、ついつい今でも油断すると誘惑されてしまうのだけど。