Balatroでポーカーを破壊せよ
毎週のように新しい話題作に事欠かない近年のインディーゲーム業界だが、その中でも"Slay the Spire"(以下、StS)は特大ヒットの一つだろう。
StSは「ストライク」とか「防御」といったカードを使って敵を倒していくゲーム。最初は「ストライク」が5枚で「防御」が4枚という山札を与えられ、カードを使い終わったらまた山札を切り直して同じカードを使っていく。途中で強いカードを入手したり、弱いカードを山札から抜いたりすると、プレイ感覚がどんどん変わっていく。そうして自分だけの最強の山札(デッキ)を作るのだ。
Magic: The Gathering(以下、一度しか出てこないけどMtG)では自分の好きな魔法カードを集めて、山札を作ったところがゲームのスタートであった。ボードゲームの「ドミニオン」では、初期の山札はみんな同じだが、そこから好きなカードを加えていくことをゲーム化し、デッキ構築という今日の一大ジャンルを成立させた。StSはこのデッキ構築をデジタルとして再編成させたものと言える。
対戦型アナログゲームであるMtGやドミニオンでは、相手より極端に強いデッキが出来てはいけない。誰もめちゃくちゃ強い相手と戦いたくなんてないからだ。しかしStSはデジタルなので、こちらがめちゃくちゃ強くなったら、敵側もめちゃくちゃ強くしていくことができる。そうやって終わりのないインフレ勝負になっていく。
StSの基本戦略では、まず防御を固めて、相手の隙を見て攻撃をするのだが、例えば防御をガチガチに固めたあとにボディスラム(防御値で攻撃するカード)をかませば攻撃が不要になると気付く。そういう発見を通じて、ゲーム側が用意する様々な妨害をくぐり抜けていくうち、とんでもないコンボが決まって、強いボスを圧倒できたりする。ゲームデザイナーの上杉真人氏はこれを「ゲームを壊す」感覚と言っていた。
一方でStSの問題は、それから無数に生まれたStSフォロワー作品にも言えることだが、ゲームを壊す楽しみを知るためには、まずゲームを理解しないといけないことである。StSはたいへん良く出来たゲームだが、それでも脱力がどうとか弱体がこうとか、ナイフがどうとか毒がこうとか、覚えることが多い。ゲームのルールを覚えることで、ようやくゲームを壊すことができる。そこに辿りつければ楽しいのだが、その楽しみを理解するまでが難しい。
というのが今回の話の前段で、本題はこのごろ巷で話題の、私も大いにはまっている"Balatro"である。これもStSフォロワーの一つなのだが、ルールはポーカーである。トランプのカードを配られて、ワンペアとかフラッシュとかフルハウスを作る。もちろんデッキ構築ゲームなので、2や3のような弱いカードを抜いたり、ダイヤをハートに変えたりできる。
さっき私が書いた防御とボディスラムの例は、StSをやっていない人にはよく分からなかっただろうが、Balatroでは例えば山札を再構築してすべてハートにできる。そうするとなにを出してもフラッシュになる。分かりやすい。強い。
スリーカードのレベルを上げていけば、ロイヤルフラッシュより得点が高くなる。エースの得点が極端に高くなる能力があったり、手札のカードをコピーする能力があったり……どれもこれもおそろしく分かりやすい。ポーカーの基本知識が人々の中にあって、それに基いてゲームが設計されているからである。これだけStSフォロワー作品がある中で、なぜこの単純なデザインに誰も気付かなかったのだろう? ネットの情報を見ても、ツーペアが安定しているとか、フラッシュが強いとか、ストレートが弱いとか盛り上がっていて、面白い。
笑ったのは、ハートのAを3枚、ハートのKを2枚でフラッシュを作ったら、フラッシュハウスという聞いたことのない役になったことである。ファイブカードもあるし、フラッシュファイブもある。ルールを破壊し尽すと、新しいルールが必要になるのである。おすすめです。