泣かないで、パーティ
亡くなった人を取り上げはじめると、毎週それだけになってしまうが、先日はスライ・ストーンが亡くなった。コロナ禍の鬱々としたとき、スライ・バージョンの「ケ・セラ・セラ」を延々と聴いていた話は以前に書いた。
いまからスライを聴くなら、その「ケ・セラ・セラ」が収録されている"Fresh"とか、その前作で歴史的名盤と呼ばれる"There's A Riot Goin' On"とか、そのさらに前作で大ヒット曲のEveryday Peopleが収録された "Stand"あたりが一般的には薦められるのだろうが、日常的なBGMとしてはちょっとすごすぎるのではないかと、私は思う。
かわりに私は上記3作の次の作品で、Sly & The Family Stoneのラストアルバムである"Small Talk"をよく聴いてます。リリース当時はちょっと物足りないと言われていたようだが(さすがに生まれる前なので実際のところは知らないが)、私はリラックスしたいいアルバムだと思う。おすすめ。
その数日後にはBeach Boysのブライアン・ウィルソンが亡くなった。大傑作"Pet Sounds"を作り上げ、そのあと"Smile"というアルバムを作ろうとしたがうまく行かず、しかし30年以上経ってソロ・ミュージシャンとして"Smile"を完成させた……という話はよく知られたところである。
映画「死ぬまでにしたい10のこと」でもお馴染み。「いつも愛してるというわけではないかもしれないけど~」という歌い出しが本当にいいですね。
私は"Pet Sounds"を初めて聴いたとき、なんだか恐ろしくて、あんまり落ち着いてられなかったのを覚えている。いまはもう「慣れて」しまったが、 音の詰め込みかたが圧倒的なせいか、なんかゾワゾワするのだ。
かわりによく聴いたのが"Pet Sounds"のあと、完成しない"Smile"のかわりにリリースされた"Smiley Smile"である。"Small Talk"を「隠れた佳作」と形容するなら、こちらは「カルト作」くらいなのだろうが、なんだか忘れられない作品である。
"Pet Sounds"といえば、SMAPが脈略なく"Pet Sounds"のアルバムジャケットを採用したことを村上春樹がディスりまくった昔の話が最近また掘り返されて、私は初めて読んだのだけど、めちゃくちゃ面白かった。悪口ほど文体を洗練させるものはない。
そして、こちらは数ヶ月前の話になるのだが、なにか調べごとをしていたとき、Tony Toni Toneのドゥエイン・ウィギンスが3月に亡くなっていたことを知った。
私が洋楽を聴きまくるようになったのは90年代の半ばで、ソウル・ミュージック界隈がヒップホップ旋風に押されるなか、昔のソウル・ミュージックの美味しいところをもっと純粋に取り上げればいいじゃん、という感じで生まれたネオソウル・ムーブメントにばちっとハマったのがきっかけである。ディアンジェロ、エリカ・バドゥ、ローリン・ヒル、マックスウェルといった、いまも人気のある人達がどっと出てきた時期である。
Tony Toni Toneはその中でもネオソウルっぽいことにいち早く取り組んでいて、洋楽にはまり始めた私を、最新のソウル・ミュージックと、昔のソウル・ミュージックの両方へ同時に案内してくれた存在と言える。私がこの世で一番好きなアルバムはなにかと言われたら、彼らの"Sons of Soul"か、その次のラストアルバムである"House of Music"かで悩む。
中心メンバーのラファエル・サーディクはそのあとソロ・アーティストとしても、プロデューサーとしても活躍していくが、ドゥエイン・ウィギンスのほうは一枚ソロ・アルバムを出したくらいで、あんまり派手な活動はなかった。Tony Toni Toneも、ライブでは再結成したりしていたようだが、再びアルバムを出すことはなかった。
でもまあ、名盤は名盤としていつまでも残り続けるありがたさですね。
"House of Music"の実質的な最後の曲がこれ。
みんな生きていたい
誰も死にたくない
もし僕が死んだら、泣かないで、パーティだ
死ぬことが怖くて
どうやって生きていくんだ
もし僕が死んだら、泣かないで、パーティだ