本屋がつらい
しばらく前から薄々気付いていたが、このごろ本屋がつらい。
私はわりと本を読むのが好きだし、本と本屋のおかげで救われてきたこともあると思う。しかし、いつからか本屋にいるとつらい気持ちになることが増えた。好きな本屋もあるが、大抵の本屋は今や私にとって耐えがたい空間になっている。
これを読め! あれをやるな! これに従え! 知らないと恥ずかしい! あなただけが知っておくべき! なんとか大賞! 誰々が推薦! 緊急出版! 今年最高!
こんな煽り文句ばかりで溢れる空間が本屋以外にあるだろうか。ドンキホーテやボジョレーヌーボーでさえ、もう少し落ち着いている。私は面白い本を探しに本屋に行っているのであって、ひろゆきやホリエモンの顔を見に行ってるのではない。
インターネットだって、メディアの釣りタイトルやらコンプレック商材の広告やらで溢れた、だいぶん騒がしい場所かもしれない。それでも、本屋よりはマシだ。インターネットは入口が沢山あって、どこに行けば落ち着いた空間であるか分かっているし、ホリエモンだってブロックできる。しかし本屋はだいたい入口が一つしかなくて、どこまで行ってもビックリマークだらけだし、ブロック機能はない。
大したことも書いてないくせに偉そうな自己啓発本やビジネス本ばかりを批判しているわけではない。専門書も、文芸も、いつの間にか同じような煽り文句が蔓延するようになってしまった。面白そうな本があると評判を聞いて、本屋で手に取ったら、煽り文句で溢れた帯や、無粋な有名人の推薦文があって、買うことをやめたことがもう何度もある。
不思議なのは、多くの本が自分は人気者であるかのようにアピールしていることである。何万部売れたとか、なにかの新聞やテレビで取り上げられたとか、芸能人が話題にしたとか。
しかし悲しいかな、読書というのはすでに限られた人の趣味なのである。本は特別に人気のメディアではない。世の中で人気なものを求めて本屋に行くというのは根本的に間違っているし、本がそういう要求に応えようとするのも間違っているのではないか。
とはいえ、本、本屋、出版業界の苦境は十分に理解している。むしろ苦境だからこその必死のアピール、断末魔なのかもしれない。
その証拠に、好調が続くマンガでは、なんとか大賞とか何万部突破とかアニメ化決定とかのアピールもたくさん目にはするけど、一方でなんだかよく分からない(ビニールで包まれて中を見ることもできない)本がそのままに沢山並んでいる。マンガでは煽り文句に頼らない、指名買い、レーベル買い、ジャケ買いがまだまだ強いということなのだろう。
皮肉なことにAmazonは書影には帯がないことがわりとあって、本屋よりも落ち着いて見える。帯とポップのない本屋があれば、案外流行るのではないかなと思うのだけど、どうでしょうか。