キャンプとしての焼肉(あるいは路地歩き)
世はアウトドア、キャンプブームである。世間のトレンドを少し早く踏み外すことに定評のある私も、数年前から何度かキャンプに行っている。徹底的にインドア派の私も、40年を過ぎると家に退屈してくるのだ。
我が家には車がない。だからテントや寝袋は持ち歩けるものを揃える必要があった。電車とバスで辿りつけるキャンプ場に行き、まわりは大きなテントでバーベキューなどやっている中、こちらは小さな登山用テントを貼り、バーナーでお湯を湧かしてカップヌードルを食べた。それが初めての家族キャンプの、素敵な思い出である。
それからレンタカーを借りることを覚えたが、テントは今も小さい。
キャンプは確かに楽しい。私は知らない場所に行くのが好きだし、バーベキューは楽しい。焚き火も楽しい。しかし、小さなテントのせいかもしれないが、わざわざ寝袋で寝ることのメリットはよく分からない。大きなテントを買ってもいいのだが、そうすると設営や撤収に時間がかかる。そもそもキャンプ場は遅くまでうるさい人達がいたり、それでなくても熟睡は難しい。
だったらバーベキューのできるホテルに泊まって、夜は静かな部屋とふかふかのベッドで寝たほうが満足度が高いのではないか? 実際にそういう「キャンプ」を体験してみたら、とても良かった。おまけに、なかなか予約のとれない高機能キャンプ場より、バーベキュー場のあるホテルのほうが手頃だったりする。
さらに言えば、本当に遠くまで出かける必要があるのだろうか。もしバーベキューをやりたいなら、焼肉屋に行くことを「キャンプ」とラディカルに考えても良いわけである。おなかいっぱい食べて、そのまま家に戻って慣れたベッドで眠れる。私はキャンプ場へ運転して行く時は、帰宅するまで酒を飲まない。しかし都内の焼肉屋ならたくさんビールを飲んでも電車で帰ってこれる。
いや、キャンプ場のような、未知の、非日常空間が良いのだということであれば、ただ旅行すれば良い。そもそも木々に囲まれたキャンプ場はどこも似たような雰囲気だし、あたりをそれほど散策するわけでもない。観光地を歩いたり、あるいは登山をしたりしたほうが、知らなかった場所を体験できる。
そう考えると、わざわざ遠くまで行って、そこでじっとして、窮屈な睡眠をするキャンプは、ちょっともったいない感じもする。いや、そもそもキャンプというのが、たとえばリゾート旅行のような、どちらかというと「じっとしているのが好きな人」向きなのだろう。
一方で私は明らかに「じっとしていられない人」なのである。そういうわけで私の「キャンプ」は、温泉旅行とか、登山とか、焼肉を食べるとか、路地を歩くとかいった形で発展的に解消されつつある。キャンプとは多義的なのだ。