人間ドラマは結果オーライ
ダミアン・リラードというNBAのスター選手がいる。新人のときから12年に渡ってポートランド・トレイルブレイザーズという中堅チームに所属しており、というかブレイザーズが中堅なのはひとえにリラードが長く活躍しているからである。選手の出入りが活発なNBAにおいて、10年以上もひとつのチームにいるのは珍しい。
NBAで新人から10年以上同じチームに在籍する他の現役選手:
ステフィン・カリー(ゴールデンステート・ウォリアーズ):14年
クレイ・トンプソン(ゴールデンステート・ウォリアーズ):12年
ドレイモンド・グリーン(ゴールデンステート・ウォリアーズ):11年
ヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス):10年
以上。
昨今のNBAではチームが強くなってくると、有望な若手やドラフトの権利など将来性を犠牲にし、一気にスター選手をかき集めて優勝を目指す「オールイン」という戦略が一般化しつつある。地道に強化していくだけでは優勝できないということなのだろう。
ただ、リラードはずっとそういう風潮に批判的であり、ブレイザーズで優勝を目指すのだと公言していた。NBAには30もチームがあるから、現実的には難しいとしても。
そのリラードが昨季のシーズン終了後、トレードを要求した。勝てないチームでくすぶるスター選手が勝てるチームへの移籍を志願するのは、NBAではもはや日常風景であり、だったら長期契約などするなよと思うのだが、まあ人間は業の深い存在だから仕方ない。それでもあのリラードが、というのは驚きであった。しかも移籍先は強豪のマイアミ・ヒートが良いという。
なにがリラードを変えたのかは分からない。33歳になって自分のプロキャリアに終わりが近付いていると感じたのかもしれない。ブレイザーズが本気で優勝を目指すのを待っていたが、その機会は訪れないと悟ったのかもしれない。もう金や個人の成績の心配をする選手ではない。今さら移籍するなら目的はただ一つ、優勝である。確かにマイアミは環境もいいし、選手も揃っているからうってつけだろう。
スター選手のリラードが移籍を志願すれば、当然ヒート以外にも多くのチームが関心を寄せる。しかしリラードは時に遠回しに、時にストレートに、マイアミ・ヒート以外ではプレーしない、ポートランドに残ることもない、と言う。
ブレイザーズは不満を抱えたリラードをチームに残しても仕方がないので、トレードでどこかの有望な若手やドラフトの権利と交換するしかない。しかし、トレードを焦ると他のチームから足下を見られる。特にリラードが志願するヒートはこれを機にと買い叩いてくるだろう。
リラードはどこへ行くのか。色々なチームの名前が噂に上がっては消えていく。これがこのオフシーズン、最大のドラマであった。
結果は、ミルウォーキー・バックスであった。スーパースター、ヤニス・アデトクンボを擁する、優勝候補の筆頭チームである。リラード獲得により、チームをさらに強化しつつ、迫るアデトクンボの再契約も目指すという手に出たわけである。
NBAに関心がないままここまで読んでくれた人は、えっ、マイアミ・ヒート以外はダメだったんじゃないの? と思うかもしれない。私もそう思う。でも良かったのである。だって優勝できそうなんだから。ぶっちゃけ、ヒートに行くよりもさらに優勝できそうである。マイアミのようなリゾート地ではないが、それはまあ引退後の楽しみにしておけば良い。結果オーライ。
最近のNBAは、生半可なリアリティーショーより面白い。人間の業の塊である。今シーズンも楽しみですね。