なろう系の次はしんどい系
私は中学生くらいの頃からそこそこ本を読むのが好きで、概ねフィクションばかり読んできた。というか、自己啓発本、ビジネス本がこれだけ流行するまで、読書とはおおむねフィクションを指してませんでしたか。
それはさておき。
フィクションが好きだというと、どういう本が好きかという話になるのだが、自分では「これ」という分類がなかなか見つからなかった。
例えば、子供のころは三国志や銀河英雄伝説を読みふけっていたし、多感なころは村上春樹~柴田元幸の現代アメリカ文学をばかり読んで、そこからカート・ヴォネガットを経由してSFを読んだり、ミステリーを読んだり、大人になるとさらに遡ってカフカ、ドン・キホーテやデカメロンに辿りついたり、ガルシア=マルケスにはまってマジックリアリティばかり読んだりしていた。
数年前の自分に好きなフィクションを尋ねたら、ブローティガンの「西瓜糖の日々」、ガルシア=マルケスの「コレラの時代の愛」、ウンベルト・エーコの「バウドリーノ」、クッツェーの「恥辱」などを挙げたと思う。
ただ、これらに共通点があるかと言われると、なんとも答えづらい。
2018年に「スリー・ビルボード」という映画が日本で公開されて、私はその素晴らしい構成にものすごく感銘を受けた。
調べてみると、この映画はフラナリー・オコナーというアメリカ人作家の小説に強く影響を受けているというので、そこから私はオコナーの小説を一通り読んだ。するとこれがまあ、めちゃくちゃ面白いのである。
よし、じゃあ読んでみるか、と思ってくれた素直な方にあらかじめ伝えておくけれど、オコナーの小説はだいたい救いがない。暴力的な、ひどい出来事ばかり起きる。本当にひどい。
注意はしました。
しかし改めて考え直すと、先程挙げた私の好きな作品も、まあだいたいひどい出来事ばかり起きる。「コレラの時代の愛」や「バウドリーノ」はその中では比較的前向きだが、どの作品も誰がいつ、理由なく死ぬか分からない、そういう容赦のなさと常に隣り合わせである。
そういうわけで、オコナーの小説を一通り読んだあとになって、ああ自分は、こういう容赦のない、しんどい小説が好きだったのか、とようやく気付いたのである。しんどい系小説と呼びたい。
もっとも、フラナリー・オコナーのようなしんどい小説には南部ゴシックという分類がちゃんとあり、他にウィリアム・フォークナー、コーマック・マッカーシー、初期のカポーティ、ハーパー・リーの「アラバマ物語」などが代表例として挙げられるらしい。
さっそくコーマック・マッカーシーの「ザ・ロード」を読んでみたら、文明が崩壊したっぽい世界で、親子二人がひたすら道を歩くという、ミニマムなしんどい系小説で、とても良かった。
最近は異世界転生とかなんとか、チート能力を持ったキャラクターが活躍する物語が一大ジャンルになっている。ということは、今後数年のうちに反動で、なにをやってもうまくいかない、最低最悪な出来事ばかり起きる中で生きていくしかない、しんどい系小説が流行してもおかしくないのではないでしょうか。
しんどい系小説フェア、どこかやってくれないかな。しんどい系小説のおすすめが是非あったら教えてください。