少し前に「魔法かもしれない」という10pの読みきりマンガがネットで少し話題になっていた。なんでもない話なのだが、面白い。
調べてみると、同じ作家で「月出づる街の人々」という連載作品があるらしい。あたりまえのように何話か無料で読める。読んでください。
読みましたか。めちゃくちゃいいですね。コミックは2巻まで出ている。私はもちろん買いました。
これに限らず、最近は面白いマンガが本当に多いが、このマンガは自分にぴたりとはまってしまった。どういうマンガが好きかと言われたら、こういうマンガが好きだと言えば済む感じである。個人的には間違いなく今年一番のマンガである。いや、「ダンジョン飯」の終わりかたは素晴らしかったし、「葬送のフリーレン」はとても良いし、「これを描いて死ね」は読むたび泣きそうになってしまうのだが、それでも。
いまの世の中、本当に面白いマンガが多くて、たいへん満足しているのだが、一方でこの年になってくると、自分にぴったり合うような作品と出会う機会はそれほど多くない。
たとえば「チェンソーマン」や「呪術廻戦」はすごく面白いが、自分ではなく自分の子供のために描かれた作品のように感じるし、それは未来のためにはいいことなのだろう。「聖闘士星矢」が小学生の私のために、あるいは「幽☆遊☆白書」が中学生の私のために描かれた作品のように。
最近、「違国日記」を読みはじめて、いいマンガだなあとしみじみ思うのだが、自分は読者の中心ではないなとも感じる。
別に私のような面倒くさい中年男性のためにマンガが描かれる必要はないのだが、でもそれくらい「月出づる街の人々」にはぴったりはまってしまった。そういうこともある。こういう、いい意味で「なんでもないマンガ」が読めると、とても嬉しい。
いつも言っているのだが、ニュースレターには書いていなかったので、この機会に書いておくと、私が人生で一冊のマンガを選べと言われたら、こうの史代の「長い道」を挙げる。って、これも数話ネットで読めるのか。
こうの史代は「この世界の片隅に」や「夕凪の街 桜の国」といった戦中もので有名だが、なんでもない話を描いても本当に素晴らしい。私はあんまり本を何度も読み返さないが、こればかりは何度でも読んでしまう。まあ、どうしようもないヒモの男の話なのだが。読んでください。
それにしても、話題のマンガがたくさんオンラインで無料で読めて、気になったらワンクリックで買えて手元の端末ですぐに読めるというのは、誰が想像したよりもすごいマンガの黄金時代ではないかと思うし、そのおかげでマンガにおける表現範囲の裾野がこれまで以上に広がっていると感じる。