パーソナライゼーションって何だったのか
このごろSpotifyを起動すると頻繁に知らないポッドキャストがおすすめされるようになった。正直、知らない人のポッドキャストって私は聞こうと思わない。知らない人の話を聞くと疲れてしまう。そういうのが苦手で、人と話をするより本を読んだり音楽を聞いたりするのを好んできたのではないか。
Spotifyがポッドキャストをアピールする理由は分かる。頻繁に更新されるポッドキャストのリスナーになってくれれば、Spotifyアプリの起動回数も増える。音楽配信よりコストも安いだろう。
でも私があんまりポッドキャストを聞かないことくらい、そろそろ分かって欲しい。だいたいSpotifyって大量のコンテンツから個人に合わせた最適なレコメンデーションをしてくれる、優秀なパーソナライゼーションで知られたのではなかったのか。
そんなことを考えていたら、ちょうどSpotifyのアルゴリズムを批判する記事を見つけた。要約すれば、Spotifyにとって重要なのはあくまで会員が長くアプリを使い続けることであって、そのために必要なのは刺激のある新しい発見ではなく、再生をやめさせないような刺激の少ない音楽を提供し続けることになっている……という話。もちろん私はSpotifyのアルゴリズムの中身など知らないけれど、説得力はある。
考えてみれば、Spotifyが私のために最適な音楽を提案してくれるというのは、不動産屋に行けば私のために最適な部屋を提案してくれるとか、保険屋に行けば私のために最適な保険を提案してくれるというくらい、ナイーブな発想である。でも正直、そういう風に考えられるようになるまで、ずいぶん時間がかかった。
だってこの二十年くらい、アルゴリズムとパーソナライゼーションって、なんだかすごいもののように宣伝されてきた。私が7年前に書いた「あなたがネットでエロ広告を見るのは、あなたがエロいからではない 」が未だに時々話題になるのも、ネット広告というのはアルゴリズムで最適化された素晴らしいパーソナライゼーションの結果なのだ、という考えがあるからだろう。テクノロジーは素晴らしい。だからエロ広告を見るのはエロい人に違いない、という。
でも、パーソナライゼーションがどれだけ高度でも、ないものは提供できない。Amazonをどれだけ検索しても売ってないものは見つからないように。そして、パーソナライゼーションはいつだって企業の都合で調整できる。Google検索が自社サービスを優先させたように、Metaが詐欺広告を知りながら配信を続けたように。
と書きながら思ったけど、パーソナライゼーションとかアルゴリズムって以前ほど耳にしなくなった。そのうち死語になっていくのでしょう。これからは最高に賢いAIがぜんぶ最適な答えを教えてくれるから。
いちおう、Spotifyがちゃんと仕事をすることも多々あります。これはおすすめされたロバート・グラスパーとノラ・ジョーンズの新曲。カバーだとはすぐ気付いたのだが、誰のカバーかは調べるまで思い出せなかった。SpotifyでもYouTubeでも、元曲へのリンクとかがあればいいのにね。

