3Dプリンタで丁寧な暮らし
ものを買うときには大抵、必要だから、便利だから、好きだから……といった真っ当な理由がある。ただ時には、必要ではないし、すごく欲しいわけでもないのだけど、自分が手に入れないといけないものだから、と感じて買うこともある。いわば義務感、矜持である。
近年そう感じて買った一つが3Dプリンタであった。3Dプリンタで何かを作りたいというわけではない。でも、オープンソースやメイカーといったムーブメントを信じる者として、3Dプリンタくらい使えるようでなければいけないと思ったのである。
2017年の夏ごろ、ネットでいろいろと調べて、サポートの評価が高いQidi TechのX-One 2というのを買った。Amazonで注文したのはX-Oneだったが届いたのはX-One 2で、どうやらパーツが増えたアップデート版らしい。私は中国メーカーのこういうノリが嫌いではない。新モデルのほうがいいでしょ? みたいな。
そういうわけで自室に3Dプリンタが来たわけだが、何かを作りたかったわけではないので、何を作ればいいのか分からない。ネットにはそのままプリントできるファイルがたくさんあるから色々と試してはみるものの、うまく出力するのも難しい。3Dプリンタの素材(フィラメント)とか、プリンタ側の設定とか、部屋の温度とか、考えなければいけない要素が色々ある。
当初はプリンタ自体にもちょっとした不具合があって、メーカーに問い合わせたらすぐに新しいパーツを送ってくれた。3Dプリンタはバラバラのキット状態で販売されているものも多く、私は面倒だからわざわざ完成済の商品を買ったのだが、パーツ交換のために早々にバラして構造を理解することになった。3Dプリンタで何かを作るというより、3Dプリンタという環境を整えるための試行錯誤をしている感じであった。
まあ、私はそういう試行錯誤が嫌いではない。昔パソコンを初めて買ったときも、パソコンでなにかで遊ぶより、パソコンの設定ばかりに時間をかけていたものである。今回もフィラメントを次々に買ったり、3Dモデリングのソフトを勉強したり、スライサーと呼ばれるツールをあれこれ試したり、Raspberry Piにプリンタサーバーを用意してネット経由で3Dプリンタを操作できるようにしたりした。
3Dプランタ環境はどんどん整備されて、私は3Dプリンタを習熟していった。一方で、肝心の「作りたいもの」は最後まで出てこなかった。ちょっとした小物置きを作ったくらいだろうか。次第に3Dプリンタに触れる機会は減り、昨年の引っ越し前に悩んだ結果、廃棄してしまった。
もっと3Dプリンタを活用できたら良かったと思う。でも欲しいものはだいたい、もっと安価で簡単にAmazonやダイソーで買えてしまう。
fabcrossにむらさきさんという方が3Dプリンタについて時々記事を書いていて、この前は子供の出産後に3Dプリンタが大活躍した話を紹介していた。私はこの記事を去年から何回も噛み締めるように読んでいる。素敵。かっこいい。憧れる。よく「丁寧な暮らし」と言うけれど、私の理想とする丁寧な暮らしはなにかと言われたら、子供が産まれたことで3Dプリンタが大活躍するような暮らしだと思う。
でも自分はそうならなかった。3Dプリンタを活用するアイデアに乏しかったから。いや、アイデアもファイルもネットにたくさん転がっているのに、それらを活用しようとせず、すぐ既製品を買って解決してしまうから。丁寧な暮らし できない なぜ。
ちなみにむらさきさんは、最近とても評判のよいBambu LabのP1Sという製品を使っているそうで、調べてみると年末のセールで10万円くらいであった。私もこれくらいの最新・高性能3Dプリンタがあれば、もっと活用できただろうか? そうは思わない。いや、でも、最近の製品は面倒な補正など不要で、簡単に高品質なプリントができるらしい。どうでしょう、10万円?