Michael Jacksonの1996年の作品に"HIStory"というアルバムがある。文句のつけようがないベストアルバムと、新録ヒット曲が盛り沢山の、2枚組セット。マイケル大好きっ子だった私は当時めちゃくちゃ愛聴していて、特にJanetとの兄妹デュエット"Scream"は素晴らしいPVとあわせてマイ・ベスト・オブ・マイケルの一つである。
まあ一番好きなのは"Remember the Time"なんだけど。かっこいい。
当時の私はポップソングの英語詞が理解できるようなできないようなという状態だったが、幸いにも私が持っていた"HIStory"は日本盤で、歌詞対訳がちゃんとあった。
そういうわけで訳詞を読み込んでようやく分かったのだが、当時の(そして以降、死ぬまでの)マイケルの歌詞は、大半がめちゃくちゃに暗い。"Scream"も、かっこいいダンスばかり目がいってしまうが、「叫びたくなるから、プレッシャーをかけるのはやめてくれ」というのがサビである。これがアルバムからの最初のシングルで、アルバムの1曲目でもある。暗い。
そして2曲目は"They don't care about us"で、「みんな俺達のことなんて気にしちゃいない」である。暗い。キング・オブ・ポップもつらいよ、ということを訳詞を読んで高校生だった私はようやく理解したのだ。
いまのインターネットは、ちょっと目立ったことを言うだけで有名人になれる。有名人になれたら、自分自身を商材にして色々な方法でマネタイズできる。そうやって次々と話題のインフルエンサーが誕生していき、さらに次なるインフルエンサーを目指す人達がどうやって耳目を集めようかとセルフプロモーションを繰り広げていく。
でもその先に何があるのか? ソーシャルメディアが出てきたころは、その未来が分からなかったけれど、今は流行も一回りして、有名人でいることはそれはそれで難しい、ということがはっきりしてきたように感じる。
フォロワーがどれだけ増えても、単著を出しても、メディアやイベントで引っ張りだこになっても、起業しても、人生は続く。過激なことを言って人気を集めたなら、残りの人生では、さらに過激なことを言っていかないといけない。「ご報告があります」でクリックを稼いだら、次は「大切なご報告があります」でクリックを稼ぐことになる。さもないと、すぐ次世代の有名人が台頭してきて、前時代の人になってしまう。誰だって15ツイートは有名になれる。
人生が30年か40年くらいだったら、有名人としてどんどん先鋭化していっても、ちょうど行き詰まるくらいで死んでしまえるかもしれない。でも大半の人達にとって、人生はもう少し長い。
私が、昨今の個人対個人における「推し」ブームに対して疑念を持っているのも同じで、推してもらって収入源にするのはいいのだが、それに頼るには人生はやや長いし、やや長い人生をずっと推し続けてもらうのは、大半の人間にとっては重責である。
そう考えると会社みたいな法人格というのはよく出来た仕組みで、揉め事があっても(ふつうは)個人が矢面に立つ必要がない。まさに会社の人格である。会社がうまくいかなかったら潰せるし、その責任も(ある程度は)うやむやにできる。他方、個人の人格は傷つけてしまうと、なかなか修復できない。
Michael Jacksonはめちゃくちゃにアルバムを売って、世界中にファンができて、ネバーランドを建設できるくらい大金持ちになったが、それゆえにプレッシャー、アンチ、パパラッチなどに悩まされ続けた。インターネット有名人のうち、有名税を払ってもお釣りが来る人がどれだけいるのだろう。あるいは、いま収益がプラスでも、これから有名税を払い続けられる人がどれだけいるのだろう。
まあ私に言われるまでもなく、みんなそんなことは自覚した上でインターネットを走り続けているのだろう。インターネット有名人として十分な収益を確保したら、あとは未練なくぱっと表舞台から消えるのが理想なのだろうが、思っていても実現するのは難しい。