メディアをつくらない方法
デイリーポータルZが東急傘下から独立するというニュースを見た。
私はBuzzFeedをやめてから、副業でメディアを作れないかなと思っていて、ぶっちゃけ事業として稼げなくてもライターに多少の還元ができるような仕組みはないか考えていたのだけど、やっぱり厳しいなーというのが正直なところである。
ビジネスとして厳しいというのは、収益源の目処が立たないということにつきる。
収益1:広告
一番の収益源となるはずなのは広告だろう。しかし昨今のプライバシーデータの規制により(それ自体は良いことなのだろうが)、メディアが表示するようなバナー広告の効果は落ち、広告単価は下がっている。多くのメディアも広告の量を増やして対応し、ページを開いたら広告、ページを切り替えたら広告という感じだ。
単価の下がった広告枠は規模の小さな広告主にも買いやすくなるので、昨今あちこちで話題の、低品質な、詐欺まがいの広告がたくさん見られるようになった。しかし、広告プラットフォームもメディアも誰も取り締まらない。それが収益源だからである。
結果としてユーザーは自衛のために広告ブロッカーを利用する。大手の広告主はブランドセーフティのためバナー広告を敬遠するようになる。広告単価はさらに落ちて、広告収益はさらに減る。残るのは低品質な広告ばかり。絵に描いたような下降サイクル。
収益2-A:投げ銭
他の収益源があるとすれば課金だ。面白い記事に投げ銭をさせてくれればいいのにと人は言うが、実行する人は少ない。PVの何パーセントが投げ銭のリンクをクリックするだろうか。そこからクレジットカードを登録してコンバージョンする率は?
だいたい、まともな事業体はそんな不安定な収益源を頼れない。広告であれば短期的にはPVにあわせた収益予想がつくので、PVが稼げなかった月でも記事を濫造して取り戻せるかもしれないが、投げ銭が足りないからと月末に慌ててヒットコンテンツを用意することはできない。
余談1:広告メディアの収益は短期的にはPVに依存するが、中期的には広告単価が重要な変数となり、長期的にはすべてのメディアは死んでいる。
余談2:つまり、ウケそうなコンテンツを完成させてから売るというのは、どれだけ売れるかやってみないと分からないというのでリスクの高いビジネスモデルなのだが、それを全力でやっているのが映画業界の面白いところである。
収益2-B:月額課金
そういうわけで月額課金である。デイリーポータルZもこれを柱に選んだようで、当然というか、他に選択肢がないというのが正直なところである。イベントをするとか(Newspicks)、グッズを売るとか(ほぼ日)、そういう手段もあるが、それも会員のベースが出来てからの話だろう。
月1100円からという設定に対して、数百円なら~という声もあるようだが、そういう人はいくらでも払わないので、これくらいでいいと思う。なにか年一回オリジナルグッズを配るかわり、月2000円からにしても良かったくらいである。
もっといえば、月1万円の初期サポーターを1000人限定募集とかでも良かったのでは(シリアルナンバーの書かれた会員証つき!)。長くインフレと無縁だった日本人は値上げに敏感なので、最初の値段設定は高くしておきたいのだ。安いプランは後で作れる。
支出と収支
デイリーポータルZは月100万円の赤字だったらしいが、さすがに編集部に人を置いていた時のことで、独立後はそんな出費はないと思いたい。サーバー代が月80万とかいう話もあって、これもなんとかならんかなーと思う。コストを限りなくゼロにすれば、少なくとも損はしない。
比較してみると、スマホ一つではじめられるYouTuberは支出のリスクがなく、経営的に正しい。なんなら、ニュースレターにしたっていいわけである。noteの定期購読マガジンは決済手数料を引いてさらに20%(と振込手数料)らしく、さすがに高すぎるのだが、固定費を抱えるリスクを考えると選択肢としてはありかもしれない。実際、動画が作れる人はみんなYouTuberになって、作れない人はニュースレターを書いているわけである。
(追記:noteのメンバーシップ機能は手数料10%とのこと。定期購読とメンバーシップの違いはこちらにある。知らんかった)
メディアの役割
そう考えると、ウェブサイトを中心としたようなネットメディアの役割はもう終わったのかもしれない。稼げる人はわざわざメディアや組織といった仕組みのいらない時代で、YouTuberでさえみんな独立していくわけである。デイリーポータルZは歴史のある組織で、実績のあるベテランが揃っているけれど、これからの新興メディアは、すごく意地悪な言い方をすれば、個人で稼げない人達の集まりということになるのかもしれない。
でもまあ、最初から自分で稼げる人というのはそういないわけで、今後のメディアはライターとかプランナーの養成所みたいな役割を担っていくという割り切りでも良いのかもしれない。出版社だって一番の仕事は人材発掘なわけである。問題は、出版社はスーパーヒットクリエイターのおかげで人材発掘の裾野を広げることができるが、ネットメディアはそうはいかないということだ。
もっともメディアは人材養成所というなら、ライターに原稿料を払うのではなく、ライターから受講料をもらう形にすれば、収益モデルは解決できる。記事は会員向けサイトに公開する形で、寄稿するライターはそのサイトのアクセス権を友人たちに売る。記事ごとに何枚のアクセス権を売るかノルマがあって、でもノルマ以上に売れたらキックバックがあって、この話もう終わりにしましょうか。